10月21日 源氏物語 澪標

<原文>
 下りゐなむの御心づかひ近くなりぬるにも、 尚侍、心細げに世を思ひ嘆きたまへる、いとあはれにおぼされけり。「大臣亡せたまひ、大宮もたのもしげなくのみあついたまへるに、わが世残り少なき心地するになむ、いといとほしう、名残なきさまにてとまりたまはむとすらむ。昔より、人には思ひおとしたまへれど、みづからの心ざしのまたなきならひに、ただ御ことのみなむ、あはれにおぼえける。立ちまさる人、また御本意ありて見たまふとも、おろかならぬ心ざしはしも、なずらはざらむと思ふさへこそ、心苦しけれ」とて、うち泣きたまふ。女君、顔はいとあかくにほひて、こぼるばかりの愛敬にて、涙もこぼれぬるを、 よろづの罪忘れて、あはれにらうたしと御覧ぜらる。「などか、御子をだに持たまへるまじき。くちをしうもあるかな。契り深き人のためには、今見出でたまひてむと思ふもくちをしや。限りあれば、ただ人にてぞ見たまはむかし」など、行く末のことをさへのたまはするに、 いとはづかしうも悲しうもおぼえたまふ。御容貌など、なまめかしうきよらにて、限りなき御心ざしの年月に添ふやうにもてなさせたまふに、めでたき人なれど、さしも思ひたまへらざりしけしき、心ばへなど、もの思ひ知られたまふままに、などて、わが心の若くいはけなきにまかせて、さる騷ぎをさへ引き出でて、わが名をばさらにもいはず、人の御ためさへ、などおぼし出づるに、いと憂き御身なり。


<現代語訳>
 (朱雀帝は)ご退位なさろうとのご決心が近づくにつけても、尚侍が、頼りなさげに身の上を嘆きなさるのを、大変不憫にお思いなさった。「大臣はお亡くなりになり、大宮も頼りなくご病気も篤くいらっしゃるのに、私の命も残り少ない心地がし、大変気の毒に、これまでとは打って変わった境遇でこの世にとどまりなさるのでしょう。昔から、かの人より軽くみていらっしゃったけれど、私の愛情はこの上なく深いものだと思ってきた習いで、ただあなたのことだけを、

<語彙>
下りゐる…(地位を)退く、退位する


<注釈>
尚侍(ないしのかみ)…朧月夜
大臣…朧月夜の父である太政大臣(もと右大臣)
大宮…弘徽殿太后
名残なきさま…後見のいない境遇
人…ここでは源氏

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10月7日 Also sprach Zarathustra(ツァラトゥストラはかく語りき)

<原文>
O Mensch! Gib Acht!
Was spricht die tiefe Mitternacht?
Ich schlief, ich schlief-,
Aus tiefem Traum bin ich erwacht:-
Die Welt ist tief,
Und tiefer als der Tag gedacht.
Tief ist ihr Weh-,
Lust-tiefer noch als Herzeleid:
Weh spricht: Vergeh!
Doch alle Lust will Ewigkeit-,
-will tiefe, tiefe Ewigkeit!


<和訳>
おお人間よ!しかと聞け!
深い真夜中は何を語るか。
私は眠った、私は眠った―、
深い夢から私は目覚めた―、
世界は深い、
昼が考えたより深い。
世界の悲しみは深い―、
悦びは―心の痛みよりも深い、
悲しみは言う、去れ!と。
しかしすべての悦びは永遠を欲する―、
深い、深い永遠を欲する!

Anaconda Verlag GmbH, Also sprach Zarathustra p253

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10月5日 源氏物語 桐壺

<原文>
 輦車の宣旨などのたまはせても、また入らせたまひて、さらにえ許させたまはず。「限りあらむ道にも、おくれ先立たじと契らせたまひけるを、さりともうち捨てては、え行きやらじ」とのたまはするを、女もいといみじと見たてまつりて、
「限りとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけりいとかく思うたまへましかば」
と、息も絶えつつ、聞こえまほしげなることはありげなれど、いと苦しげにたゆげなれば、かくながら、ともかくもならむを御覧じ果てむとおぼしめすに、「今日始むべき祈りども、さるべき人々うけたまはれる、今宵より」と聞こえ急がせば、わりなく思ほしながら、まかでさせたまふ。御胸つとふたがりて、つゆまどろまれず、明かしかねさせたまふ。御使の行きかふほどもなきに、なほいぶせさを限りなくのたまはせつるを、「夜中うち過ぐるほどになむ、絶えはてたまひぬる」とて泣き騒げば、御使もいとあへなくて帰り参りぬ。きこしめす御心まどひ、何ごともおぼしめし分かれず、籠りおはします。


<現代語訳>
 輦車の宣旨など仰ったものの、また(桐壺更衣の部屋に)お入りなさって、(宮中からの退出を)まったくお許しなさることができない。「死出の旅路にも、遅れ先立つまいと約束なさったのに、いくらなんでも私を残しては、(里へ)行かれまい」と仰るのを、女もたいへん悲しいとお思い申し上げて、
「最後と思って別れる道の悲しさにつけても、生(行)きたいのは(死出の道ではなく)命です、このようになると存じ上げていたならば」
と、息も絶え絶えに、申し上げたいことはありそうだけれど、とても苦しく疲れた様子なので、このまま生死の程を見届けようとお思いなさるが、「今日から始める予定の祈祷の数々、しかるべき僧たちが承っています、今夜から」と申し上げて急かすので、どうにも耐えがたくお思いになりながら、退出させなさる。胸が塞がり、まったく眠れず、夜を明かしかねなさる。お見舞いの勅使が行き来する程の時間も経っていないのに、気がかりなお気持ちを絶え間なく仰ったが、「夜中過ぎに、息をお引きとりなさった」といって泣き騒ぐので、勅使もたいそうがっかりして帰ってきた。お聞きになられた御心は悲嘆に暮れ、何事も分別がつかず、引き籠っていらっしゃる。

<語彙>
のたまはす…天皇、上皇、皇后、中宮などに用いられる最高敬語

<注釈>
輦車…輿に車輪をつけて人が手で引く車
宣旨…中務省を経ずにうちわの手続で出される勅命
女…桐壺の更衣
いかまほしき…「行く」「生く」の掛詞

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Tag : 源氏物語 桐壺 現代語訳

8月14日 SEHNSUCHT(憧れ)

<原文>
Ach, aus dieses Tales Gründen,
Die der kalte Nebel drückt,
Könnt ich doch den Ausgang finden,
Ach wie fühlt ich mich beglückt!
Dort erblick ich schöne Hügel,
Ewig jung und ewig grün!
Hätt ich Schwingen, hätt ich Flügel,
Nach den Hügeln zög ich hin.

Harmonieen hör ich klingen,
Töne süßer Himmelsruh,
Und die leichten Winde bringen
Mir der Düfte Balsam zu,
Goldne Früchte seh ich glühen
Winkend zwischen dunkelm Laub,
Und die Blumen, die dort blühen,
Werden keines Winters Raub.

Ach wie schön muß sichs ergehen
Dort im ewgen Sonnenschein,
Und die Luft auf jenen Höhen
O wie labend muß sie sein!
Doch mir wehrt des Stromes Toben,
Der ergrimmt dazwischen braust.
Seine Wellen sind gehoben,
Daß die Seele mir ergraust.

Einen Nachen seh ich schwanken,
Aber ach! der Fährmann fehlt.
Frisch hinein und ohne Wanken,
Sein Segel sind beseelt.
Du mußt glauben, du mußt wagen,
Denn die Götter keihn kein pfand,
Nur ein Wunder kann dich tragen
In das schöne Wunderland.


<和訳>
ああ、冷たい霧の立ち込める、
この谷の底から、
逃れる道を見つけられたなら、
ああ私はどれだけ幸せだろうか!
あそこに永遠に若く永遠に緑の
美しい丘が見える!
私に翼があれば、
私はあの丘へ飛んで行くのに。

調和した響きが聞こえる、
甘美な天上のやすらぎの音色、
微風が運んでくれる
私に快い香りの慰めを、
暗い木の葉の間で合図する
金色の果実が赤く燃えるのが見える、
そしてそこに咲く花々は、
冬の犠牲になることはない。

ああ、あの永遠に降りそそぐ日光の中を
気ままに歩くことはどれだけすばらしいだろう、
そしてあの丘の上の空気は
おおどれだけさわやかだろう。
しかし轟轟と音を立てて荒れ狂う、
激流が私を妨げる。
その波は高く、
私の魂は怯えている。

一艘の小舟が揺れるのが見える、
ところがああ!渡し守はいない。
ためらうことなく颯爽と乗り込め、
その帆は活気に満ちている。
君は信じよ、敢行せよ、
神々は保証を与えはしない、
ただ奇跡だけが君を運んでくれる
美しい不思議の国へ。

Sigbert Mohn Verlag Friedrich Schiller Gesammelte Werke
In Fünf Bänden Band 3 pp.607-608

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Tag : Schiller Sehnsucht シラー あこがれ

7月9日 

破綻寸前の年金制度、福島第一原発の廃炉費用等々、
日本人はいつまで負の遺産を後世に残し続けるのだろうか。

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Tag : 日本 社会 経済