9月11日 源氏物語 桐壺

<原文>
 はじめよりおしなべての上宮仕へしたまふべき際にはあらざりき。おぼえいとやむごとなく、上衆めかしけれど、わりなくまつはさせたまふあまりに、さるべき御遊びのをりをり、何事にもゆゑある事のふしぶしには、まづまうのぼらせたまふ。ある時には大殿籠りすぐして、やがてさぶらはせたまひなど、あながちに御前去らずもてなさせたまひしほどに、おのづから軽きかたにも見えしを、この御子生まれたまひてのちは、いと心ことに思ほしおきてたれば、坊にも、ようせずは、この御子の居たまふべきなめりと、一の御子の女御はおぼし疑へり。人より先に参りたまひて、やむごとなき御思ひなべてならず、御子たちなどもおはしませば、この御方の御いさめをのみぞ、なほわづらはしう、心苦しう思ひきこえさせたまひける。

<現代語訳>
 (桐壺更衣は)もとより(帝の)日常一般の用をおつとめなさる身分ではなかった。世間の評判も並々でなく、高貴な風格もあったが、(帝が)無理にお側に付き添わせなさるあまり、しかるべき管弦の催しの折々、何事にも由緒ある催しの節々には、(桐壺更衣を)まず参上させなさる。ある時には(帝が)寝過ごされて、そのままお仕えさせなさるなど、強引にお側に置いておかれたので、自然と身分も軽く見えたが、この御子がお生まれになってからは、格別に取り計らおうとお決めなさったので、皇太子には、悪くすると、この御子がお立ちになるかもしれないと、第一皇子の母の女御は疑っていらっしゃる。他の者より先に入内なさって、(帝が)大切にお思いになること一通りでなく、御子たちもいらっしゃるので、(帝も)このお方の忠告だけは、やはりいとわしく、気がかりにお思い申し上げなさった。

<語彙>
おしなべて…あまねく、総じて、普通
上宮仕へ…天皇の側で日常の用をつとめること
際…家柄、身分
上衆めく…(めくは接尾語)貴人らしくふるまう、貴人のように見える
わりなし…道理にかなわない、無理だ
まつ(纏)はす…つきまとう、絶えず側に付き添わせる
まうのぼる…参上する
大殿籠る…「寝る」の尊敬語
あながちなり…強引である
思ほしおき(掟)つ…思い掟つ(あらかじめどのように取り計らうかを心に決めるの意)の敬語
坊…皇太子、東宮坊(皇太子の御所)から転じた言い方
ようせずは…よくせずはのウ音便、悪くすると、ひょっとすると
おはす…いらっしゃる
わづらはし…いとわしい、面倒だ、憚られる
こころぐるし…胸がつまる思いである、つらい、気がかりである

<注釈>
上宮仕へしたまふべき際には…女御、更衣は御殿を賜り、天皇のお召しの時だけ参上する
やがてさぶらはせたまひなど…普通、女御、更衣は夜の用がすめば自分の御殿へ下がる
この御子…光源氏
一の御子の女御…弘徽殿女御
人より先に参りたまひて…権勢のある政治家の娘から入内することが多い

テーマ : 古文 - ジャンル : 学問・文化・芸術

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