11月26日 源氏物語 桐壺

<原文>
 御子は、かくてもいと御覧ぜまほしけれど、かかるほどにさぶらひたまふ、例なきことなれば、まかでたまひなむとす。何事かあらむとも思したらず、さぶらふ人々の泣きまどひ、上も御涙のひまなく流れおはしますを、あやしと見たてまつりたまへるを、よろしきことにだに、かかる別れの悲しからぬはなきわざなるを、ましてあはれにいふかひなし。
 限りあれば、例の作法にをさめたてまつるを、母北の方、同じ煙にのぼりなむと、泣きこがれたまひて、御送りの女房の車にしたひ乗りたまひて、愛宕といふ所にいといかめしうその作法したるに、おはし着きたる心地、いかばかりかはありけむ。


<現代語訳>
 御子は、喪中でも(帝は)たいへんご覧になりたいけれど、こうした時に宮中にお仕えなさるのは、例のないことなので、退出しようとなさる。何事かお分かりにならず、お仕えなさっている人々がたいそう泣いて、帝も絶え間なく涙を流されるのを、不思議そうに見ていらっしゃる、普通の場合でさえ、このような別れを悲しまぬことはないのに、ましてその悲しさは言うべき言葉もない。
 (亡骸をこのままにしておくにも)限りがあるので、通例の作法にて(棺に)お納め申し上げるが、母北の方は、同じ煙になって空へ上りたいと、泣き焦がれなさって、お送りの女房の車に後からお乗りになり、愛宕というたいそう厳かに葬儀を行っている所に、行き着きなさった時のお気持ちは、どのようなものであったであろうか。

<注釈>
御子…光源氏
例なきこと…延喜七年(九〇七年)以降、七歳以下の子供は親の喪に服すに及ばないこととなったため、この物語の時代は九〇七年以前ということになる
例の作法…火葬
母北の方…桐壺更衣の母

テーマ : 古文 - ジャンル : 学問・文化・芸術

Tag : 源氏物語 桐壺 現代語訳

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